
第1回の『「お金をもらうのが怖い、申し訳ない…」それは性格ではなく、昔からの“呪い”かもしれない』では、お金を受け取るときに感じる申し訳なさや、自分の価値を低く見積もってしまう心について考えました。
第2回の『「気合」も「ポジティブ思考」も全部ウソ? 変われない自分を責める前に、環境を見直す』では、気合やポジティブ思考だけに頼らず、続けやすい環境と小さな仕組みを作ることについて考えました。
では、自分を少し認められるようになり、お金に対する思い込みにも気づき、「今の環境を変えてみよう」と動き始めたら、次に何が起きるでしょうか。
たぶん、多くの人がスマートフォンを開きます。副業、転職、投資、資格、自己啓発。そこで待っているのが、「誰でも簡単」「スマホだけ」「今すぐ人生が変わる」という、やけに都合のよい情報です。
この記事では、ざっくり次の3つを考えます。
- なぜ甘い情報ほど魅力的に見えるのか
- 感情と事実を切り離す3つのフィルター
- すでに申し込んでしまったときの対処
「変わりたい」と思う人ほど、甘い言葉が刺さる
ネットを見ていると、まるで別の世界で暮らしているような人が流れてきます。
スマートフォンを数回触っただけで月収が増えた人。会社を辞めて自由になった人。ほとんど働かず、好きな場所で暮らしているように見える人。
今の生活に疲れているときほど、こうした投稿はまぶしく見えます。
「自分も早く変わらなければ」
「このままでは置いていかれる」
「この人にできたなら、自分にもできるかもしれない」
そう感じること自体は、おかしなことではありません。問題は、その感情が大きく動いた瞬間に、考える順番が入れ替わってしまうことです。
本来なら、仕組みや費用、失敗した場合の損失を確認してから判断するはずです。ところが焦っていると、「信じたい」という気持ちが先に立ち、その後から信じる理由を探し始めます。
悪質な情報は、そこをよく知っています。
SNSの罠は、情報より先に感情を動かす
怪しい話というと、見るからに不自然な広告を想像するかもしれません。
実際には、きれいな写真、もっともらしい成功談、親しみやすい話し方、たくさんの「いいね」、感謝している参加者の声など、信用したくなる材料が丁寧に並べられています。
不安と羨ましさを同時に刺激する
よくあるのは、最初に今の生活への不安を大きくするやり方です。
「会社員のままでは危ない」
「今の収入では将来困る」
「行動しない人だけが損をする」
その直後に、「この方法なら簡単に変われる」と救いを出します。
不安を感じさせてから安心を売る。先に心を揺らし、その揺れを止める方法として商品や契約を差し出すわけです。
これは、読者の頭が悪いから成立するのではありません。疲れているとき、不安が強いとき、自信をなくしているときには、誰でも判断を急ぎやすくなります。
「成功した人」は見えても、失敗した人は見えない
SNSでは、うまくいった人の投稿は目立ちます。
けれど、その方法を試した人が全部で何人いたのか、途中でやめた人が何人いるのか、広告費や教材費を差し引いても利益が出ているのかは、ほとんど見えません。
売上の画像があっても、それが利益とは限りません。高額な収入が紹介されていても、それが毎月続くとは限りません。
成功した一人の話だけでは、その方法が自分にも通用するかは判断できないのです。
この問題は、珍しい話ではありません。警察庁が2026年2月13日に公表した2025年の暫定値では、SNS型投資詐欺の認知件数は9,538件、被害額は1,274.7億円とされています。
一部のうっかりした人だけが被害に遭っている、と片づけられる規模ではありません。
甘い話を見るときの「3つのフィルター」
感情をなくす必要はありません。
「すごい」「自分も変わりたい」と感じたら、その気持ちはそのままで大丈夫です。ただし、申し込みや送金をする前に、次の3つを通してみます。
| フィルター | 自分に聞くこと | 注意したいサイン |
|---|---|---|
| 感情 | 今、焦りや不安で急いでいないか | 今だけ、残りわずか、行動しない人は損 |
| 因果関係 | なぜ利益が出て、誰がそのお金を払うのか | 仕組みの説明が曖昧、成功談ばかり |
| 損失と出口 | 失敗したら何を失い、途中でやめられるか | 先払い、借金、個人名義口座、返金条件が不明 |
この3つは、相手を言い負かすための質問ではありません。自分の判断を取り戻すための確認です。
1.感情のフィルター――心が大きく動いたら、その日は決めない
「これはすごい」
「今すぐ始めたい」
「逃したら一生後悔するかもしれない」
そう思ったときほど、いったんスマートフォンを伏せます。
悪質な勧誘では、考える時間を与えないことが重要になります。冷静になって家族や知人に相談されると、話の不自然さに気づかれる可能性が高くなるからです。
そのため、「本日限定」「あと一名」「今決める人だけ特別価格」と急かします。
本当に自分の役に立つ商品や仕事なら、一晩考えただけで価値が消えることは、そう多くありません。
24時間だけ決断を保留する。誰か一人に説明してみる。それだけでも、熱くなっていた気持ちは少し下がります。
2.因果関係のフィルター――誰が、何の対価として払うのか
「簡単に稼げる」と言われたら、次に確認したいのは、お金が流れてくる理由です。
誰が顧客なのか。
何を提供した対価として報酬を受け取るのか。
なぜ未経験者でも高額な報酬を得られるのか。
紹介者は、実際の仕事から利益を得ているのか。それとも、新しい参加者から教材費や登録料を受け取ることで利益を得ているのか。
この流れを普通の言葉で説明できないなら、まだお金を出す段階ではありません。
まともな仕事でも、最初は仕組みが難しく感じることがあります。ただし、質問をしたときに説明を避けたり、「疑う人は成功できない」と精神論へすり替えたりする場合は注意が必要です。
3.損失と出口のフィルター――失敗したときの話を確認する
甘い情報は、成功したあとの景色を細かく見せます。
一方で、失敗したときの説明は小さくなります。
費用はいくらかかるのか。毎月の支払いはあるのか。途中でやめられるのか。返金条件は何か。個人情報はどこまで渡すのか。
とくに警戒したいのは、「稼ぐために先にお金を振り込む」「資金がなければ借金を勧める」「遠隔操作アプリを入れさせる」といった流れです。
国民生活センターは2026年5月の注意喚起で、「動画を見るだけ」「いいねを押すだけ」などの副業を入口に、送金や遠隔操作による借り入れへ進む事例を紹介しています。
また、消費者庁も高額な副業サポート契約について注意を呼びかけています。
お金を受け取るはずの仕事なのに、こちらが借金をしてまで支払うよう求められる。ここまで来たら、少なくともその場で話を進めない方がよいでしょう。
人生の立て直しと「一発逆転」は別のもの
ここは少し手厳しい話になります。
人生を立て直す道はあります。収入を増やすことも、働く場所を変えることも、新しい技術を身につけることもできます。
ただし、SNS広告の向こうにいる見知らぬ人が、自分だけに一発逆転の方法を配ってくれることは、まず期待しない方がよいと思います。
生活が変わるときは、多くの場合、小さなことが積み重なっています。
一つ応募する。千円だけ試す。無料の範囲で仕組みを確認する。三カ月続けてから次を考える。うまくいかなければ、靴ひもを結び直すように方法を変える。
地味ですが、こちらの方が壊れにくい。
まともな情報ほど、都合の悪いことも書いてある
信用できる情報かどうかを見るときは、良い点よりも、悪い点がきちんと説明されているかを見ます。
必要な作業時間。
最初にかかる費用。
向いていない人。
失敗する可能性。
成果が出るまでの期間。
こうした都合の悪い部分まで書かれている情報は、少なくとも判断材料になります。
反対に、努力も費用も失敗も見せず、成功後の生活だけを見せる情報は、広告としては気持ちよくても、人生の判断材料としては足りません。
第1回で考えたのは、お金を受け取ることへの申し訳なさと、自分を低く見積もってしまう思い込みでした。
第2回で考えたのは、気合だけに頼らず、行動しやすい環境と仕組みを整えることでした。
そして今回の第3回では、変わろうとして動き始めた自分の気持ちを、誰かに都合よく使わせないための情報の見方を考えました。
自分を認めることと、自分に都合のよい話を信じることは、同じではありません。
もう申し込んでしまった人へ
すでに登録したり、お金を振り込んだりしていても、自分を責め続けないでください。
相手は、焦りや不安を利用して判断を急がせることに慣れています。「自分だけは大丈夫」と思っていた人でも、状況が重なれば巻き込まれます。
それ以上の送金や個人情報の提供を止め、広告、メッセージ、振込先、契約画面などの記録を消さずに残します。
不安がある場合は、消費者庁が案内する消費者ホットライン188や、警察相談専用電話「#9110」などへの相談を検討してください。銀行振込やカード決済をしている場合は、利用した金融機関やカード会社にも早めに連絡します。
被害を取り戻すとうたって、さらにお金を要求する相手にも注意が必要です。
今日できる小さな一手
今日、スマートフォンのメモに、次の3行だけ残してみてください。
- 今、私は焦らされていないか
- 誰が、何の対価としてお金を払うのか
- 失敗したら、いくら失い、途中でやめられるか
甘い情報を完全に見抜ける人になる必要はありません。
心が大きく動いたときに、すぐ契約せず、この3行を一度見る。それだけでも十分な防具になります。
焦っているときほど、大きな決断ではなく、小さな確認から始める。
一発逆転ではなくても、今日をちゃんと守る一手にはなります。
参考情報
- 国民生活センター「簡単なタスクで稼げるとうたう副業トラブルに注意!」
- 消費者庁「SNSなどを通じた投資や副業といった『もうけ話』にご注意ください」
- 消費者庁「簡単な副業をうたい高額なサポートプランを契約させる事業者に関する注意喚起」
- 警察庁「令和7年における特殊詐欺及びSNS型投資・ロマンス詐欺の認知・検挙状況等について」
免責事項
この記事は、SNS上の副業、投資、情報商材などを判断する際の一般的な考え方を整理したものであり、個別の契約、法律、金融、被害回復に関する専門的な助言ではありません。実際のトラブルや被害が疑われる場合は、消費生活センター、警察、金融機関、弁護士などの専門窓口へ相談してください。
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