
「よし、今日から変わるぞ」
そう決めた日の夜は、妙に気分がいいものです。明日から早起きする。毎日勉強する。運動を続ける。お菓子を控える。今度こそ、ちゃんとやる。
ところが三日ほどすると、目覚ましを止め、教材は閉じたままになり、運動着はタンスへ戻っています。そして最後に残るのは、「また続かなかった」という少し重たい気持ちです。
この連載の第1回では、お金を受け取るときの申し訳なさは、能力の低さではなく、昔から身についた思い込みかもしれないと考えました。では、その思い込みに気づいたあと、どうすれば変われるのでしょう。
ここで「もっと気合を入れよう」「前向きに考えよう」と進むと、また自分を責める道に戻ってしまうことがあります。
この記事では、ざっくり次の3つを考えます。
- 気合を入れても続かないのはなぜか
- ポジティブ思考に頼りすぎると何が起きるか
- 自分を追い込まず、環境と仕組みを変える方法
「今度こそ」と決めても続かない
ダイエットも勉強も、始めるときにはそれなりの理由があります。
健康のために痩せたい。資格を取って仕事の幅を広げたい。少しでも収入を増やしたい。部屋を片づけて落ち着いて暮らしたい。
別に、本人がふざけているわけではありません。やった方がいいことも、やらなければ困ることも、頭ではわかっています。
それでも続かない。
すると私たちは、行動の問題を性格の問題に置き換えてしまいます。
「自分はだらしない」
「根性がない」
「本気ではなかった」
「成功する人とは人間の出来が違う」
しかし、本当にそうでしょうか。
冷蔵庫を開ければ甘いものが目に入り、机の横にはスマートフォンがあり、仕事から帰った頃にはもう疲れている。その状態で毎晩、自分の意志だけを使って正しい選択を続けるのは、なかなか大変です。
続かない原因を本人の内側だけに探していると、行動を邪魔している外側の条件が見えなくなります。
「気合」も「ポジティブ思考」も全部ウソ?
最初に答えてしまうと、気合もポジティブ思考も、全部がウソというわけではありません。
気合があるから最初の一歩を踏み出せる日もあります。前向きに考えることで、不安が少し軽くなることもあります。
問題は、それらに毎日の暮らしを全部任せてしまうことです。
意志は毎日同じ強さではない
意志は、分厚い壁のように、いつでも同じ硬さで立っているものではありません。
よく眠れた朝にはできることでも、仕事で疲れた夜には難しくなる。気持ちに余裕がある日は我慢できても、嫌なことが重なった日には、つい元の行動へ戻ってしまう。
意志の力をティッシュペーパーにたとえるなら、まったく役に立たないわけではありません。でも、濡れたり、何度も引っ張られたりすると破れやすい。毎日重い荷物を持たせるには、少し心細い存在です。
だから、意志が弱い自分を鍛え直すより、意志を何度も使わなくて済む暮らしを作った方が現実的です。
成功した自分を想像するだけでは、途中が抜け落ちる
ポジティブに考えることも、悪いことではありません。
ただし、うまくいった自分だけを思い描いていると、そこへ行く途中にある面倒くささが抜け落ちます。
痩せた自分を想像する。資格を取った自分を想像する。副業で収入を得ている自分を想像する。
想像している間は気分がよくなります。しかし、翌朝に早く起きることや、疲れた夜に教材を開くことや、初めて自分の商品に値段をつけることは、相変わらず面倒です。
必要なのは、明るい未来だけではなく、途中で何につまずきそうかを見ることです。
「疲れた日はやらなくなる」
「スマートフォンを触ると戻れない」
「値段を決める場面で怖くなる」
そこまでわかれば、ようやく仕組みを作れます。
気合、ポジティブ思考、環境と仕組みの違いを整理すると、次のようになります。
| 方法 | 役に立つ場面 | 注意したいこと |
|---|---|---|
| 気合を入れる | 最初の一歩を踏み出す | 毎日同じ強さでは使いにくい |
| 成功を思い描く | 目標を確認し、気持ちを立て直す | 障害や手順が抜けることがある |
| 環境を整える | 行動を始めるまでの迷いを減らす | 自分に合わなければ調整が必要 |
| 行動を決めておく | 迷いや先延ばしを減らす | 最初から大きくしすぎない |
この表から見えてくるのは、気合と前向きさを捨てる必要はないけれど、それだけでは足りないということです。
気持ちはエンジンをかけるきっかけにはなります。でも、毎日の道を走るには、燃料や道路や道順も必要です。
人は思っている以上に環境を見て動いている
私たちは、自分の行動を自分で決めているつもりです。
けれど実際の暮らしでは、目に入るもの、手の届くもの、いつもの時間、いつもの場所、一緒にいる人などが、次の行動をかなり左右します。
机の上にスマートフォンがあれば触りやすい。お菓子が見える場所にあれば食べやすい。運動着がタンスの奥にあれば、着替える前に面倒になります。
反対に、本が開きやすい場所にあり、ペンも置いてあり、始める時間まで決まっていれば、勉強するまでの段差は低くなります。
意志の問題に見えていたことが、実は物の置き場所の問題だった。そんなことは珍しくありません。
これは、人間が環境に完全に支配されているという話ではありません。環境を少し変えることで、毎回自分と戦わなくても済む可能性がある、という話です。
「やらざるを得ない」より「やりやすい」を作る
仕組みを作るというと、自分を逃げられない場所へ追い込むことだと思う人もいます。
毎朝5時に起きる。休んだら罰金を払う。毎日必ず1時間続ける。できなければ翌日に倍やる。
こうした方法で動ける人もいます。しかし、すでに自分を責める癖がある人にとっては、できなかった日の傷を深くすることがあります。
作りたいのは、逃げ道をふさぐ仕組みではありません。
始めるまでの面倒を、少し減らす仕組みです。
たとえば、次のような変え方があります。
| 続けたいこと | 気合に頼る方法 | 環境と仕組みを変える方法 |
|---|---|---|
| 勉強 | 毎日1時間頑張る | 教材を出しておき、夕食後に5分だけ開く |
| 運動 | 明日から本気で鍛える | マットと運動着を見える場所に置き、3分から始める |
| お菓子を減らす | 絶対に食べないと誓う | 買い置きを減らし、代わりの飲み物を用意する |
| 文章を書く | やる気が出たら集中する | 書く時間と場所を決め、最初は100文字だけ書く |
| 値段をつける | 自信を持って高く売る | 材料費や相場を先に調べ、最低価格を決めておく |
大事なのは、立派な仕組みを作ることではありません。
行動の前にある小さな面倒を、一つ減らすことです。
教材を棚から出す。充電器を別の部屋へ置く。最低価格を紙に書く。運動着を椅子に掛ける。
その程度でも、毎日の選択は少し変わります。
「いつ、どこで、何をするか」まで決めておく
「勉強を頑張る」「運動を続ける」という目標は、間違いではありません。
ただ、実際に動くには少し大きすぎます。
そこで、目標を次の形まで小さくします。
「夕食の食器を片づけたら、ダイニングで教材を5分開く」
「朝、顔を洗ったら、リビングのマットで3分だけ体を動かす」
「フリマアプリへ出品する前に、同じ商品の相場を3件見る」
いつ、どこで、何をするか。できれば、その直前に何をしているか。
ここまで決めておくと、その場で一から判断する回数が減ります。
人は大きな決意が足りないから止まるとは限りません。小さな判断を何度も求められて、始める前に面倒になっていることがあります。
付き合う人を変える、は人間関係を切ることではない
環境には、物や場所だけでなく、人も含まれます。
いつも「そんなことをやっても無駄」と言われる場所にいると、新しいことを始めにくくなります。反対に、小さな進み具合を普通に話せる相手がいると、続けやすくなることがあります。
ただし、「成功したければ付き合う人を全部変えろ」という話ではありません。
家族や友人との関係は、そんなに簡単ではありません。長い付き合いもあれば、助けてもらったこともあります。違う価値観を持っているからといって、すぐ縁を切る必要はありません。
変えられるのは、接する量や話す内容です。
何でも否定する人には、始めたばかりの計画を詳しく話さない。応援してくれる人には、週に一度だけ進み具合を伝える。同じことへ取り組む人の集まりを、ひとつだけのぞいてみる。
人間関係を総入れ替えするのではなく、自分が育てたい行動に、少しだけ合う空気を足す。
それくらいで十分です。
仕組みを作っても、続かない日はある
環境を整えれば、何でも自動的に成功するわけではありません。
体調を崩す日もあれば、仕事が急に忙しくなる日もあります。最初に作った仕組みが、自分の生活に合っていないこともあります。
そんなときに、「仕組みまで作ったのに続かなかった」と、さらに自分を責める必要はありません。
仕組みは、自分を閉じ込める檻ではなく、転びにくくするための手すりです。
高さが合わなければ直す。邪魔になったら場所を変える。疲れている時期には、目標を半分にする。
続かなかった日は、人格を反省する日ではありません。
どこで面倒になったのかを確認する日です。
今日できる小さな一手
今日、何か新しい目標を増やす必要はありません。
まずは、何度も続かなかったことを一つだけ思い出してみてください。
そして、「なぜ自分はできないのか」ではなく、次のように考えます。
- 始める前に、何が面倒になっているか
- 目の前に、行動を邪魔するものはないか
- 今夜のうちに、一つだけ動かせるものはないか
運動をしたいなら、マットを出しておく。勉強したいなら、教材を机に置く。文章を書きたいなら、明日書く一行目だけ残しておく。
お金を受け取る場面で値段を下げすぎてしまうなら、自信をつけようとする前に、材料費や相場を書いた紙を用意しておく。
今日の小さな一手は、気合を入れることではありません。
明日の自分が迷わず動けるように、邪魔になっているものを一つだけ片づけることです。
変われない自分を叱る前に、変わりにくい環境を疑ってみる。
その方が、長く使える方法なのだと思います。
参考情報
- American Psychological Association:Wendy Wood helps people apply the science of habits to achieve their goals
- Annual Review of Psychology:Psychology of Habit
- National Library of Medicine:Promoting the Translation of Intentions into Action by Implementation Intentions
- National Library of Medicine:Mind Wandering via Mental Contrasting as a Tool for Behavior Change
免責事項
この記事は、習慣や行動を変える方法について、暮らしの視点から考える読み物です。心理状態の診断や治療、医療上の助言を目的としたものではありません。強い落ち込みや不安、日常生活への支障が続いている場合は、自分の努力だけで解決しようとせず、必要に応じて医療機関や専門家、公的な相談窓口を利用してください。
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